上野貴子の最近の注目作品をこのページにて発表します。
角川2021年版俳句年鑑「おしゃべりHAIKUの会」一年の動向に掲載句
冬銀河地球に立っている不思議 上野貴子
やさしさを言葉にできぬ仏桑花 土橋みゆき
草むしり胸いっぱいに満たす青 楠田玲子
通夜の風仄かに匂う梅の花 伊藤はな
行きはボブ帰りはショート雲の峰 山本佐和子
サングラス八重山の海光る顔 高橋みよこ
産声よ瘴気蹴散らせ雲の峰 小南彩乃
漂泊の俳人初夏の風に立つ 辻 雅宏
吹かぬまま仕舞う法被と祭笛 井上悦男
諸家自選5句上野貴子掲載
風光る見慣れた町のその先に
コロナ禍の逆境巣立つ燕の子
短夜の明けて都会は万華鏡
故郷は近くて遠く蜻蛉飛ぶ
冬銀河地球に立っている不思議
冬銀河・(主流譜No647号2020・7)
冬銀河地球に立っている不思議
昼の客・(なかすぎ句会2019・2・8)
背を押され何をして来た春の坂
眠らない町を光陰矢の如く
障子より光りのもれて昼の客
間違えたはずじゃなかった豆の数
花吹雪・(現代俳句年鑑より2019年版)
たんぽぽを摘んで泣きべそ似合わない
茗荷竹何をそんなに先急ぐ
花吹雪風の吹くとも吹かずとも
満開の花に天地の身際なし
黄昏れる海苔粗朶の影舟の影
誰かの眼・(主流島田句会より2018・11・3)
自転車が二つ並んでカフェの前
誰かの眼空に隙間が開いたから
鉦叩き誰かが誰か支えてる
待ち惚け・(SPCより2018・6・17)
待ち惚け誰かが置いた空の瓶
陽炎を突破してくる紙飛行機
書きかけた下書きがのこる便箋
宵静か・(SPCより2018・6・10)
通せんぼしている午後の町すずめ
風は空走る雲は空に浮かぶ
突然やって来たあれは夏燕
風鈴を風が鳴らして宵静か
初夏・(SPCより2018・6・3)
あまりに早い夏もううんざりする
夏はじめときどき風の声がする
こわされた記憶のパズル探してる
聖五月・(なかすぎ句会2018・5・18)
筍飯母の炊き上げ里の朝
引き潮の浜の風呼ぶ流れ昆布
草々を風はかすかに聖五月
遮断機を夏蝶潜り発車ベル
淡雪・(現代俳句協会誌特別作品4月号)
春早く生きものたちの地に目覚め
ホオジロかウグイスなのか梅の鳥
いつの間におなじく鳴いて谷渡り
名残り雪子猫の帰る道が無く
雪うさぎ真っ赤な目をしてまだ溶けず
町を背に追えば春星またたく間
淡雪に終わらない夢を咲かせて
何もかも忘れたくなる春あらた
聞こえないふりをしている黄水仙
梅の枝がいつもと別の方を指し
小さな芽・(東京都区現代俳句協会35周年記念句集)
角出せば春がはじまる小さな芽
ものの芽にいつもこの後雨が降る
時々シャーペンの芯替える菜種梅雨
考えて考えあぐね蜃気楼
プリズムの中小走りにぺんぺん草
編みかけた草の冠白詰草
幼馴染みんな一緒でさくら草
隠れん坊いつしか忘れ春ショール
たんぽぽの丘までとどく浜の風
永遠と夜空へ記す花こぶし
咲けば散る人は花待ち友を待つ
姉のあと妹がはしる花の下
伊勢海老・(高田馬場句会2018・1・9)
身の締まる伊勢海老激浪の陽に染まる
伊勢海老の縁起持ち上げ浜の漁夫
伊勢海老の髭まで赤く長寿国
海からか空からか年神様の不老不死
新たなる年に命の祈りあれ
繰り返しまた振り出しの屠蘇交わす
年あらた勝気な根気で気を抜かず
悪戯・(なかすぎ句会2017・11・17)
ふり向けば五十歩百歩冬紅葉
燃え尽きて五百羅漢へ散る紅葉
冬はじめだらだら五十路の女坂
北風の悪戯かしら垣乱れ
初秋刀魚・(東京都区現代俳句協会秋の吟行会2017・9・16)
黒潮の波に値の飛ぶ初秋刀魚
秋嵐待ち構えるか西郷像
犬つれて野分心配西郷どん
蔓の先小さな秋に朝の風
暗雲の立ち込める朝猫じゃらし
等々力渓谷・(cブロック吟行会2017・7・19)
苔茂る役行者の磴上る
不動尊渓を挟んで書院建つ
梅雨がれの川瀬見守る稚児大師
竹の鳴る磴を下れば川の涼
万緑を潜りせせらぎに吸い込まれ
縄文の地層よりとろとろと清水
湿地より雨あと偲ぶ糸とんぼ
木霊してとどろく滝の闇深し
薔薇・(2017・6・3)
小さな鉢の薔薇の苗今日届く
まだ雨を弾いて眠る薔薇の初夏
綻べば白から薔薇の薄化粧
ピンク色大輪となり薔薇が咲く
薔薇開き次を待ってる莟達
なぜ薔薇の棘ある姿美しく
さくら・(2017・4・23)
さえずりに眼裏の夢を探して
あどけなく莟の潤む花の雨
ひと粒の涙の語る名残り花
一片の文字を綴りて糸桜
花の丘登れば花の屋根筵
夜を走り明けには積る花吹雪
桜散りやまず年輪になる夕べ
散る花にこの世の沙汰と早回り
鬼ごっこしているようで花嵐
風光る苗ひとつ鉢に植え替え
早春に満員電車振り向けず
花吹雪つれて来たのか我家まで
莟から花は散るまで一度きり
花の雨いつだってあなたが言ったから
あやまっていたけどおなじ春大根
ところどころ花の屑つもってる
町の隅風の港か花名残り
小夜嵐塗り変えられて花の蕊
菜の花・(2017・3・24)
肩寄せて花菜と花菜宵こさめ
黒潮の波の丈まで菜種ばな
朝風のプリズム散りばめ菜の花色
走る子に陽の暮れはじめげんげ草
夕ぐれて手を振る列車げんげ草
野の真中子らの編みかけ白詰草
編みかけた草の冠春はじめ
歩の先に草のつぼみか蝶が飛ぶ
胸中に訳を探してげんげ草
ポケットに答えを探すげんげ草
げんげ草涙の訳が見つからず
紋白蝶・(なかすぎ句会2017・2・17)
黄水仙てまえの駅に途中下車
小さな芽草の芽木の芽地の目覚め
ただ中にまぎれこんだか紋白蝶
余寒めく雨のぱらつく夕間暮れ
人参・(高田馬場句会2017・1・10)
無器用なお太鼓結び初詣
朱の花に切れば人参福を呼ぶ
年鑑によせて・(角川「俳句年鑑・諸家自選五句」より2016・12・29)
雨垂れが落ちて蜉蝣遠ざける
知らずして忘れてならぬ夏がある
この一句とどけ夜空の星祭
つばくらめ絆を探し帰り来る
水たまり秋を見つけて飛び跳ねる
大空・(なかすぎ句会2016・11・4)
大空のどこまでとどく鵙日和
小春日の背に追ってくる雲の影
南瓜化け今宵は魔女のシンデレラ
ころ柿に風葉の便りとどく頃
秋刀魚・(高田馬場句会2016・10・6)
大群の秋刀魚北より下りて来る
参道の横道入ればとんぼ玉
路草・(都区協秋の吟行会2016・9・17)
上野発つ列車の後を赤とんぼ
路草に心を取られ秋の風
知らずして・(なかすぎ句会2016・8・12)
鳴き焦れ夕陽呑み込む秋の蝉
知らずして忘れてならぬ夏がある
七夕・(2016・7・7)
七夕の星待つ宵の川濁る
幼子の短冊結ぶ笹飾り
この一句届け夜空の星祭り
短冊の五色もつれて星迎え
白玉のつるんと匙を滑り落ち
砂浜の小舟に絡む流れ昆布
黒潮の夕鯵を焼く浜の宿
虫の屋根・(なかすぎ句会2016・5・20)
蕗の葉を広げ小さな虫の屋根
今日の日のあるを感謝の夏はじめ
銀座画廊・(2016・4・25)
画廊より出れば銀座の風暖か
名も知らぬ女の影か青柳
ほろ苦く銀座で珈琲夏隣り
人と人鶯色の土産菓子
牡丹苑・(牡丹苑吟行会2016・4・19)
番傘に牡丹隠れて茶屋の昼
上野には上野大仏夏隣り
蝶飛んで五重塔の建つを知る
葦簀(よしず)より五人衆かと花牡丹
花の山・(高田馬場句会2016・4・7)
根をとどめ水をとどめて芹光る
山手線花の山へと電車消え
春うらら・(なかすぎ句会2016・2・5)
急かされて改札出れば春うらら
二月来て晴れて曇って閏年
夜の更けて三日のうちの鬼やらひ
枡四角福豆丸く鬼やらひ
新年・(2016・1・4)
始まりを告げて御空へ初雀
陽のひかり松の緑を乗り越えて
年明けてやって来る雲遠のく風
始まりを今日と定めて初テレビ
紅白の膾をたしてお取り初
根深汁・(なかすぎ句会11・13)
幼子の母に引かれて夕落葉
かたわらにいつも一緒の銀杏の実
柿の生る太郎か次郎か葉と染まる
忘れては繰り返される根深汁
島の宿・
かもめ飛ぶ船の水脈引く秋夕焼け
夕富士の紫けぶる島の宿
波と波巌に弾ける石蕗の花
秋風にかもめと浮かぶ伊豆の島
秋暮れて舟どまりへと舵を切る
泣き虫・(東京都区現代俳句協会会報)
親指に傷の血滲む曼珠沙華
夕暮れて鳴く虫の声虫の名と
泣き虫の人がいるはず赤とんぼ
秋天・(高田馬場句会10・6)
鶺鴒の小波さざ波くもの波
秋天の下少年の野球帽
秋の七草・
萩しだれ木戸の古びた竹歪む
夕ぐれて列車見送る花芒
蔦強く伸びては香る葛の花
山路より谷見下ろせば藤袴
撫子の岩を割り出る深山坂
女郎花背伸びしている多摩堤
活けられて桔梗品良く奥座敷
秋づく・(都区協新会員歓迎吟行会9・5)
パレットの絵具秋づくベレー帽
ひととせのつくづく長く池の秋
夏の夜・(なかすぎ句会8・7)
人生を買物籠の昆布出汁
いつまで続く半信半疑夏の夜
太陽がまぶし過ぎると夏極み
歩み出すこれも運命とろろ汁
口・(高田馬場句会7・7)
暑い暑いいつか口癖夏盛り
白シャツの眼鏡分厚く小学生
白雨・
一日を白雨に流し星を待つ
青空を遠く白雨の降り始め
万緑が呑み込む川の音川の風
太陽の黄道長く炎暑来る
スカイツリーエレベーターで夏空へ
新緑の鎌倉・(5・22)
新緑の鎌倉巡り靴疲れ
古鳥居礼して潜る木下闇
夏山の迫る社の謂れ聞く
朱の鳥居稲荷神社に不如帰
常磐木の落葉踏み締め鎌倉路
三日月の夜空の広く生ビール
枇杷の実・(なかすぎ句会5・8)
さんざんな雨の上がれば花菖蒲
枇杷の実のたわわに古き垣越える
カタバミを踏まずにペットの子犬連れ
人の流れを川に見る鯉幟
藤・(亀戸天神吟行会4・27)
未来へと藤の枝垂れて蔭となる
今生の道は半ばと藤枝垂る
春ショール・(高田馬場句会4・7)
席に着き肩より落ちる春ショール
花吹雪どこまでゆくの宙の旅
春淡し・(なかすぎ句会2・13)
魂の底の血潮か春はじめ
東より昇る陽の影春障子
ものの芽の知に育まれ地より出ず
地の眠り覚めて山気に春の声
朝に晴れ夕べにくもる春淡し
2015詩歌句年鑑・(ことばの翼「詩歌句」2015-別冊①)
挨拶の済むまで皿に水羊羹
梅雨明けてビルのプリズム大都会
歩行天の銀座通りを夏帽子
すましてる百合の莟の語り出す
藤袴とどまる風にうす曇り
お正月・
若水を汲むを今年のはじめとす
十二支の未を飾り松の内
初買のレジに列なし福を呼ぶ
盃をあけて目出度く屠蘇の朝
初日の出おし寄せる波の息吹
冬りんご・
夢の後明日へとかじる冬林檎
枯れ尾花風にうらはら意地を張る
朝晴れて冬めく空の乾く青
納豆啜る箸の忙しく朝の椀
解禁のボジョレー開けて夕暮れる
ハローウィン・(11月なかすぎ句会にて。)
バイバイと手を振る夕焼け柿紅葉
何事も一夜で成らず滑子汁
振り向けば魔女が立ってるハローウィン
野分あと悩みをひとつ置き去りに
一本の冬紅葉してる道標
夏の空・(ことばの翼「詩歌句」Vol42。2014年・秋号掲載。)
雲の羽見つけて嬉し夏の空
山を越え遥かに高く雲の峰
何所へ飛ぶ蔓ひげ過ぎる黒揚羽
紫陽花の褪せて風鳴くセレナーデ
痛いほど空が空色夏の雲
葉から葉へ蔓から蔓へ蔭を生む
朝顔の夜々の色なし夜に眠る
爽やか・
ゴッツンと頭ぶつかり芋名月
衣被ぎお団子様より高く盛る
兎とも狸ともなく月の無し
虫の音が追掛けてくる帰り道
爽やかに目覚めて大空に祈る
盆参り・
空蝉を見つけ駐輪場真昼
帰ろうか降らずの雨に法師蝉
夢なのか欠片散りばめ遠花火
何を見て何を聞くのか花芒
盆参り線香の火を分ける夫
ラララ・
それぞれがそれぞれの夏物語
帽子でも被れば良いか緑雨降る
とんでもない記録の予感夏に入る
蚕豆を剥けばラララと空晴れる
生え出すは夏めく木々の葉の息吹
入れたての珈琲と風薫る朝
ナタデココ小さなサイコロ振る器
幟旗新茶のペットボトル売る
卯の花腐し足元のままならず
都会にも無人のホーム初燕
(2014年「蛮」No30号特別作品より)
春が来た・(「架け橋」No12夏季号招待作品5句。)
一人より二人で歩く彼岸坂
過去からの使者かと夢の欠片かと
戻り道いつもの春野の変わらずに
満開のさくらは散らず屋根となる
囀りの記憶優しく町に住む
青葉抄・(青葉抄とはおしゃべりHAIKUの会の会報の1ページ目のタイトル名。)
巳年開け逸るひとひを初茜
初句会晴れた空まで声通る
冬りんご書斎に一人お留守番
化粧水小瓶に残る春はじめ
芽キャベツの甘さ色濃く朝忙し
走り来る早春に大地の目覚め
目黒川花から花へ花の橋
満開を早めて過ぎる花の風
春の水ゆるりと海へ多摩下る
花の屋根極楽浄土とはこんな
蛇穴を出れば突然風強し
莢豌豆莢取る間さえ気忙しく
たかんなの力みるみる葉をつける
見下ろせば新緑の海へと続く
葉に染まり紫陽花の珠まだ莟
鍋の火を止めて蚊の飛ぶ羽の音
待ちぼうけ一人で傘をさす梅雨
雨垂れのひがないちにち夏至過ぎる
パセリ手折る一人のランチメール読む
滝の音吸込まれゆく山の水
虹と虹降りる袂の岐れ道
朝顔のつぼみ見つける蔓の先
輪切りのレモン浮かばせてクリスタル
雨粒の落ちてどこかで遠雷か
風さやか芒の花とワルツして
小雨あと表参道秋はじめ
天高く木漏れ陽をゆくサイクリング
小鳥来てセピアに染まるなだら坂
爽やかな朝は空色空気色
夕時雨買物籠と急ぎ足
露草と風のお散歩ランデブー
踏まれずに枯葉老樹に梢なす
セーターをザックリ被り厨事
黄落の秩父神社の宵早し
腕時計気にして見てる冬帽子
聖夜祭夢の欠片の灯をともし
(2013年の12ヶ月を今年まとめたのも)
青葉抄・
クリスマス明日へ見果てぬ夢探す
柚子湯して指で数える余す夜
鱈鍋の肉の締まれば北訛り
初春に濁世を清め空晴れる
屠蘇袋静かに開けて邪気除ける
身を正し朝陽を迎え淑気満つ
早蕨の伸びて沢風におはよう
白梅の莟の声を日々記す
淡雪に消されてもこの道を歩く
雛あられ軽やかに微風を呼ぶ
さくら咲く生まれ変われたら何になる
朝晴れて記憶の欠片雪解ける
カレンダー捲り八十八夜来る
紋白蝶せせらぎの音を陽と過り
頬白の影と光りを葉から葉へ
箱根路を登る新緑一号線
冷茶飲む古茶か新茶か二の次に
幼子の声軽やかに町みどり
(2014年の6ヶ月をまとめたのも)